望むことをすべて尊重するエンディング

あるクライアントの方から、

こんなお話をお聴きしたことがあります。

その方のお祖母さまはたいへんな旅行好き、

旅行というと、遠い場所を想像しますが、

そればかりでなく、お隣の街や、

ちょっとそこまで…というのもお好きです。

ところが、外出好きなその方が、

ある時から、家を出ることがなくなってしまいました。

お祖母さまは、おそらくもっと年をとっても、

出かけることを止めないだろうと、

ご家族も周囲の方々も思っていたため、

このような事態となって、皆さん、びっくりされたそうです。

そして、大丈夫だろうかとにわかに心配になりました。

季節のお花を見に行きましょうとお誘いしたり、

何か用事を作っては、外へ連れ出そうとしたりされました。

けれども、ご本人は、きっぱりと、こうおっしゃったそうです。

「私はもうどこへも行きたくないの。」

それからしばらくして、その方はお亡くなりになりました。

人生の終焉を迎えて、立ち止まり、少しゆっくり過ごしたいと

思われたのかもしれません。

印象深いエピソードです。

最期にいろいろな思いをまとめたり、整理したり、

反芻したり、振り返ってみたり…ということは、

その方にとって、きわめて重要なことではないかと思うためです。

出かけるということは、リアルタイムで進行する時間に乗って、

今、現在を通過していく行動ですが、

人生の中には、

(それが最期であるとは限りませんが、)

ちょっと世の中の時間の流れからはずれて、

一歩引いて、自分の心や行動、周囲の状況などを

眺めてみたくなる時間も必要ではないでしょうか?

人生の最期…というシーンを想像してみると、

きっと私も、こうしたひとときを持つような気がします。

さて、もう一つのエピソードをご紹介します。

先日、あるホスピスの関係の方から、

興味深いお話をお聴きする機会がありました。

ご存じのとおり、ホスピスに入院されている方は、

皆さん、人生の最期の時を過ごされている方々です。

医師と看護師、薬剤師、調理師、

さまざまなボランティアの方々などがチームとなって、

患者さんが快適に、安心して過ごせるように、

手厚いケアをされています。

入院されているお一人の方が、

「いつもお世話をしてもらっているばかりではつまらない。

私からも、皆さんに何かをしてあげたい。」

というお気持ちであることがわかりました。

ホスピスのスタッフさんたちを相手に、

特技を活かしたレクチャーをされることになったそうです。

その患者さんが先生で、

ナースやボランティアの方々が生徒になり、講座が開かれました。

この患者さんは、ご自分が得意とすることで、

誰かの役に立つことをしたいという

強い願いをお持ちだったのでしょう。

末期のご病気の苦しみと闘いながら、

人生の終末期を迎えてもなお、

このような積極的な姿勢、進んでご自分を活かそうとする気持ち、

人のためになりたい気持ちを持っておられるのは、

素晴らしいことだと思います。

その患者さんも、レクチャーに力を注ぎ、教えることを楽しまれ、

その後、間もなくお亡くなりになったそうです。

エンディングを迎えようとする方に対して、

その方が真に望むことを、そのまま尊重することは

この上なく重要なことです。

けれども、周囲の人々は、まだ人生の真っただ中を駆け抜けて、

前進を続けている最中ですので、

本当のところ、なぜそのお祖母さんが外出したくないのか、

なぜその患者さんがレクチャーをしたいと望むのか、

その本当の気持ちは、想像するほかはありません。

そして、まだまだ残りの人生が続いていくお元気な方にとっては、

本当のところはよくわからず、理解できないことも、

きっとたくさんあるでしょう。

そうであっても、想像力を広げて、

ご本人のそのままの気持ちを無条件に受け入れ、

尊重することが出来たとしたら、

どれほどそのエンディングが、納得と満足のある日々となることか、

そう思わずにはいられません。

無条件に尊重するということは、状況や環境によっては、

簡単ではないかもしれません。

ですが、それほど遠くはない自分自身の

エンディングのことをイメージしてみると、

受容され尊重される安らぎを越えるものなど

あるものだろうかと思われるのです。

人はユニークで、多様なものです。

一人ひとりが、他者の思惑やさまざな制限から自由になって、

納得のいくエンディングを迎えることが出来るように、

努力を重ねていきたいものです。

死への怖れを解放するエンディングサポートと死別のグリーフケア

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