厳しい愛、あたたかい愛

新入社員が選んだ「上司にしたい芸能人ランキング2019」を見ると…

男性のベスト5は、内村光良、ムロツヨシ、博多大吉、設楽統、所ジョージ。

女性のベスト5は、水卜麻美、天海祐希、吉田沙保里、深田恭子、

有働由美子。(敬称略)

参考:https://yorozu-do.com/riso-no-jyousi-ranking2017/#i-2

 

男性のほうは、強力なリーダーシップや頼もしさ、決断力などよりも、

むしろあたたかさや包容力、父性的な優しさ、ユーモアなどを

感じさせる顔ぶれのような気がしますが、いかがでしょうか?

 

女性は、明るさ、おおらかさと共に、リーダー性もあるものの、

話がわかる、通じ合えるイメージです。

 

昭和生まれの私が、

サラリーマンをしていた頃の上司を思い浮かべてみると、

このランキングの顔ぶれとはかなり違う雰囲気でした。

そして平成から令和の時代へと移り、

昔ながらのいかめしさ、厳格さ、近付き難い印象はさらに薄れ、

ソフトで人間味あふれるキャラクターが好まれているようです。

 

女性が上司として部下を導く立場になることが増えてきたことで、

上司としての在り方や部下との人間関係について、

以前よりもさまざまなお悩みをお聴きするようになっています。

 

今の世の中は、空気を読み合って摩擦を上手に避けることが基本。

たとえ部下がミスを出したり、思うように動かなかったとしても、

表だって叱責するのはもちろん、

表情に表すことさえ、ためらわれることもあるでしょう。

 

そうなると、表面的な笑顔や柔らかい口調、婉曲な表現とは裏腹に、

心の中にはストレスや葛藤が、知らず知らずのうちに蓄積していきます。

 

向上心に満ち溢れ、人一倍頑張って、

真面目に努力を積み重ねてきたからこそ、

周囲からの信頼や評価を得て、

上司としての現在のポジションにおられるわけですから、

部下たちの平均的なモチベーションや仕事への姿勢を目にして、

困惑したり、呆れたり、落胆したり、

時には怒りが込み上げてくることもあるのではないでしょうか?

 

そして思うのです。不注意から生じたミスは仕方がありませんが、

そうでない場合には、

「なぜもうちょっと頑張ろうとしないのかしら?

「なぜきちんとやろうと思わないのかしら? 」 …と。

 

その上司にとっては、意欲的に取り組み、能力をフルに発揮することは、

当たり前すぎるくらい、当たり前のことだからです。

 

その気になればやれるはずなのに、やろうとしていないように見えるため、

気のゆるみや、やる気のなさ、怠慢のように感じられてしまうのです。

 

では、その女性上司のもとで働く部下の立場からは、どうでしょうか?

 

上司の物腰や口調は柔らかいものの、

実は内側に厳しさを秘めていることを感知しているかもしれません。

高い目標を達成したいと望み、自分を律して冷徹に前進していく上司は、

理解を越えていて、まるでエイリアンのように感じられるかもしれません。

 

最近は、男女問わず、人の上に立ちたくないと感じている人もいて、

高い地位に着いていること自体、

既に自分とは違っている、異質な感覚を覚えることもあるでしょう。

 

なぜこの上司が、常に頑張り続け、最大限の努力をキープして、

自分に厳しく、向上心の高い人となっていったのか、

多くの場合、その鍵は、両親との関係にあります。

 

部下との人間関係に悩むAさんは、なぜ怒りが込み上げてくるのか、

よくわからずに、悩んでいました。

 

職場の人々が、なぜ頑張らないのかが、よく分からないのです。

 

Aさんとしては、細心の注意を払って、穏やかに注意をしています。

でも、心の中には嵐が吹き荒れているのです。

 

セッションルームで、Aさんのお話をお聴きしているうちに、

お父様が、たいそう厳しい方であったことが分かってきました。

 

いまどき考えられないくらいの厳格さで、

Aさんとご兄弟姉妹たちをしつけ、導き、鍛錬されて、

絶対に逆らうことは許されなかったそうです。

 

一般的に、子どもを愛する親の愛は、途方もなく強いものであり、

子どももまた、無条件に親を愛しています。

 

その愛の表現の仕方は、親によって、異なります。

 

親の愛情の中に、共感性、包容力、優しさ、寛容さなど、

どちらかといえば養育的な愛がたくさん含まれていることもあれば、

献身的な愛、自己犠牲的な愛、盲目的な溺愛もあります。

 

厳しさや、正義感、リーダーシップなどが前面に現れた愛情もあります。

エゴグラムの自我状態のうちの一つである

CP(controlling parent):「支配的な親」のような側面です。

 

親の価値観、世界観に沿って、

子どもをコントロールしたり、制限を与えたりするのも、

その親にしてみれば、子どもが安全に幸せに育つために必要な

最大限の愛情の表現であると自覚されていることがあります。

 

親との関係は、産まれてきて最初に体験する

他者(自分以外の人間)との人間関係であり、

その後の人間関係のベースとなるものです。

 

さて、Aさんに話を戻しますが、

Aさんは、子どもの頃は、お父さんのことが怖くて、口答えできず、

命じられるままに、規則を守り、生活態度を律し、勉強を頑張りました。

 

時には不満や悲しみ、怒りを感じたこともあったということですが、

大人となった今では、人としても、職業人としても、

厳格で正しく立派であったお父さまのことを評価していると言います。

 

そして、「愛とは、厳しいものだと思う」と言われたのです。

 

愛とはどのようなものかと問われて、出てくる答えは、人それぞれです。

Aさんの場合、それは「厳しい愛」であることが明確でした。

お父様からいただいた深い愛情には、いつでも厳しさを伴っていたためです。

 

厳しさあっての愛、愛とは厳しいもの…なのですから、

兄弟姉妹、学校のお友だち、恋人や人生のパートナー、授かった我が子、

そして職場の部下たちに対しても、

厳しさと愛は、いつでも一体となって、表現されることとなるでしょう。

 

そうすると、容赦ない完璧さ、妥協のない頑張り、最大限の努力を

ご自分にも、周囲の人々に対しても、

意識的、無意識的に求めることになっていくでしょう。

 

これをお読みくださっている方の中には、

心からAさんに共感できる、良く分かる…という方がおられると思います。

 

また、Aさんとは反対に、愛とはあたたかく、優しく、

共感に満ちたものと感じていて、

「厳しい愛」に対して、違和感を覚える方もあるでしょう。

 

「厳しい愛」は良くない、間違っているということでは決してありません。

 

「厳しい愛」も、「あたたかい愛」も、

その方にとって、大切にしたい信念であり、価値観なのですから…。

 

その方のパートナーシップや親子関係、職場の人間関係において、

ストレスや摩擦を生み出していないのであれば、それでOKです。

 

しかしながら、Aさんのケースのように、

人間関係のストレスに悩んでいたり、

人との関係が上手くいかないことに苦しんでいたりするならば、

親御さんとの関係に遡り、幼少期に体験したことや、

その時に感じたことを思い出し、振り返ってみることが出来ます。

 

記憶していること、覚えていないこと、

潜在意識の領域にしまい込まれているものに光を当ててみます。

 

人とのつながりの中に、どのような要素が含まれ、

どのような傾向を帯びているのかを、

ゆっくりと見なおしてみるチャンスとなるでしょう。

 

そして、今、起こっている問題と、どのように関わっているのかを

探求し、理解すると、ご自分のことがいっそう理解できるようになり、

同時に相手のことについても、理解が深まっていきます。

 

人間関係とは、価値観・世界観が異なるユニークな個人と個人が創り出す

化学反応のようなものであり、ふたつとして同じ関係性はありません。

 

ですので、こういう時にはこうしたら良い…というノウハウは、

本当はあまり役に立ちません。

 

そうした情報を集めたり、性格分析をしたりするよりも、

ご自分の信念・価値観が、形創られていった歴史をひもとき、

親御さんから継承し、受け取って内面化してきたものを

吟味してみることをお勧めします。

 

厳しい愛も、あたたかい愛も、

それが「愛」であることには変わりはありません。

 

親御さんからいただいた愛は、その全てを感謝して受け取り、

今の人生に不要なものや有害なもの、

幸せになることを阻む要素があるならば、

その部分だけを手放して、進んでいきましょう。 

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